作品タイトル |
作品内で判明または言及された京の過去と設定 (下段はその考察) |
華迷宮 |
私生児である。父親は今回の事件で神崎京太郎氏と判明。
現在の保護者は不明。
4年前母みやが死亡。その後親戚をたらいまわしにされる。
19年前(京が生まれて間もなく)みやと神崎氏の乗ったタクシーが事故。みやは軽症で、退院後神崎氏の前から姿を消す。
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シリーズ発進。京は、御手洗潔をかなり意識したキャラクターとして登場。かなり謎を残しているため、当初からある程度のシリーズ化の意図はあったようだ。
「親戚たらいまわし」はのち、京の過去のエピソードがドロナワ式にどんどん追加されるにしたがっていつ頃のことだか判らなくなり、遂にはたらいまわされている暇がないという状況になる。
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翠迷宮 |
現在の保護者はジョージ・アムズ氏。
6年前(京は13歳、中学1年)の一連の出来事。母とのイギリス旅行でアムズ氏と出会う→帰国後間もなく母が事故で死亡→アムズ氏保護申し出、保護者に。
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いきなり母の死亡時期に矛盾が出てきている。 が、それより興味深いのは、母みやが亡くなった京が天涯孤独とされていること、アムズ氏がすんなり保護者になっていることだろう。後に重要な存在として登場する綾小路のお祖母さまは、作者の頭の中にすら影も形もなかったと思われる。綾小路家が名家だという設定もあったかどうか怪しい。
実際、この頃の京も辛い過去を背負っているが、彼から感じられるそれには散文的な色合いが濃い。
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月迷宮 |
母死亡時(5年前)、月子に出会う。
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特に新しい事実は出てきていないが、母みやの死亡時期は「華迷宮」のときのものに戻っている。
綾小路家やそこの人々に関する設定が生まれたような様子は全く見られない。
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夏迷宮 |
溺れた経験あり。その後水が苦手になる。
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経験の詳細は「砂迷宮」で明かされるが、この時そこまで考えられていたかどうかは不明。
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奏迷宮 |
3歳から6年間、ハンス・アウトマイヤーに師事、ヴァイオリンを習う。
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京の実家が裕福な名家だという設定が初めて登場。 この話ではまだはっきりと書かれてはいないが、ヴァイオリンを習わせるあたりや「綾小路の見栄」というセリフから容易に想像できる。作者は確実に意識していただろう。
この設定の意味は大きい。この後、京のわがまま甘えん坊ぶりは加速していくことになる。あるいは、京の甘えん坊ぶりが目立ち始めたからこの設定を思いついたのかもしれない。
また、京のハードな過去についても、散文的苦労はこの後影を薄め、精神的なものがメインステージへ。人と親しくしない理由も、不信や無関心から、疎外や警戒へと徐々に変わっていく。
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鏡迷宮 |
人を殺したいほど憎んだことがある。
母が亡くなってからしばらくは、母の死を否認し抑圧していた。場所は綾小路邸。
接触嫌悪症。
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綾小路家の設定が詳しくなるにつれ「母の死後親戚をたらいまわし」というのが非常に怪しくなってくる。
接触嫌悪症の外傷経験は「僕がここにいる理由」に出てくるが、この段階ではまだ漠然としたなんとなくの設定であろう。
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砂迷宮 |
23年前の11月8日、母みや、ハルキの母親を事故で死なせてしまい神崎氏との別れを決意。その3年後、京を湖に沈めようとする。
9歳までは綾小路家で生活。その後母に連れられそこを出る。
13歳の時、母が過労で入院。その間親戚をたらいまわし。
母の退院後、共に再び綾小路家へ。貞子殺害計画と自殺未遂。
15歳の時母が事故死。アムズ氏の保護申し出を祖母は断り、京は高校卒業まで綾小路家の保護の下で生活。
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シリーズ当初は天涯孤独であった京。綾小路家という設定が加えられ、それがクローズアップされるに及んで彼の過去は大きくその印象を変える。「砂迷宮」はいわばそのまとめ編。
ここで最も意味深いポイントは、不器用だが愛情深い、京に似たお祖母さまの存在だろう。彼女の存在とアムズ氏の存在は相互排除的で、高校卒業までは祖母の保護、それ以降はアムズ氏の保護というのは作者の苦肉の策といった印象だ。実際、彼女の設定の方が先であれば、アムズ氏など影も形もなかったに違いない。
さて、この話で大きく書き換えられた京の過去。以降はこれがベースとなり、年表の空いてる部分にエピソードが追加されるだけで大幅な変更はなくなった。僕らの知っている、いわゆる「京ちゃん」はここにほぼ完成を見たのである。
ところで、母みやが神崎氏の前から姿を消した理由が明かされるが、これはちょっと苦しい。二人が同乗したタクシーが事故に遭うのは京の誕生後のことであるし、それだけなら、出産で医者にかかったことで神崎氏に見つかったが事故をこれ幸いと再び姿を消したという解釈もできるが、その後みやは綾小路邸で暮らしているのだ。綾小路家がそれほどの名家なら、神崎氏が探して見つからぬ筈があるまい。まして、仕事で駄目になったとはいえ、23年前の11月8日、彼は綾小路家を訪れる予定だったのだ。
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風迷宮 |
高校での三年間、綾小路家所有のマンションの一室で一人暮らしをしていた。
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綾小路のお祖母さまの登場で「母の死後たらいまわし」はほとんどその可能性を失っていたのだが、これで完全にその候補期間が根こそぎにされた。
また、高校生でマンションでの一人暮らしというのはある意味恵まれた環境であり、形而下的、散文的苦労はもはや感じられない。
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僕が ここにいる理由 |
9歳の時、接触嫌悪の外傷経験
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意外に、早くから考えられていて「いつか使おう」と思っていた設定なのかもしれない。
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